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- 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
- 発売日: 2009/09/25
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ジム・ジャームッシュの『デッドマン』を観た。
「快眠指数200%」なんていう評判を聞いて、戦々恐々としながら観たけど、なんというか、やっぱだるかったよ、うん……。
とは言え、面白くもあったので、以下、雑感というか分析。
・「終点」としての近代
主人公であるブレイクが仕事を求めて降り立った、鉄道の終点の街。
街の名前は「マシーン」=機械=近代の象徴。
つまり近代をある種の終点と見立てている。
街の中にはバッファローやヘラ鹿とおぼしき骨の山が散らばっている。
死のイメージ。
近代によって、ばらまかれた死。
そこから物語は始まる。
・円環という死生観・世界観
この物語の根底にあるのは、「命は海に還り、そして海から再び生まれる」という思想。
映画の中ではネイティブ・アメリカンの思想、みたいに扱われているけど、ほんとのネイティブ・アメリカンがそういう思想を持っているのか、俺は知らない。
少なくとも映画の中ではそうなっているのだから、そういうことにしておこう。
だがこの死生観から逸脱した人物が二人出てくる。
主人公であるウィリアム・ブレイクと、彼を追う殺し屋のウィルソンだ。
・「デッドマン」ブレイク
主人公であるブレイクは、物語の序盤、痴話喧嘩に巻き込まれ、胸に銃弾を受ける。
銃弾は心臓のすぐ脇に留まり、彼は自分を撃った男を逆に撃ち殺すと命からがらマシーンを抜けだす。
街の外れで気を失っていたブレイクは、ネイティブ・アメリカンであるノーバディ(誰でも無い者)に介抱され、彼にすべての命が帰る場所である海へと導かれることになる。
そこから彼は「死んだ男」として歩み始める。
それからの彼は「生前」の気弱な彼ではなく、彼と同名の詩人であり画家のウィリアム・ブレイクのように野性的でタフな男に生まれ変わる。
しかし、こういった現象は、上記のネィティブの思想とは当然そぐわない。
魂は不滅である。
しかし、一度死んだならば、その魂はいったん海に還ってから、戻ってこなくてはならない。
誤った手続きは正さなくてはならない。
だからノーバディはブレイクを海へと連れて行く。
・取り込む者、ウィルソン
ブレイクを撃ち、ブレイクに撃たれた男はマシーンの有力者の息子であり、有力者はブレイクを殺すために殺し屋を三人雇う。
その内の一人がウィルソンである。
ウィルソンは自分の両親を犯し、殺し、そして食べた異常者であり、冷酷で無口な殺し屋として描かれる。
そして、今回一緒に雇われた他の殺し屋すらも、途中で殺して、自分の夕食にしてしまう。
人を食べるという行為はカニバリズムと呼ばれる。
これが象徴的に意味するのは、食べる=相手を自分に取り込むというものだ。
相手の肉体を取り込むことで、相手の霊性も自分に取り込むということ。
これは魂が海に還らなければならないという件の思想とは、当然相容れない。
なにせ自分自身に取り込んでしまうのだから。
それゆえウィルソンもまたブレイク同様逸脱者である。
そしてそれゆえ二人に物語の焦点が絞られていく。
・仲介者、ノーバディ
しかし、結論から言うと、ブレイクとウィルソンは出会うことなく物語は終わる。
ブレイクは旅の途中でもう一度撃たれ、朦朧としながらノーバディに舟に乗せられ、海へと還って行く。
その少し後にウィルソンはその現場を訪れ、遠ざかるブレイクを殺そうと、銃弾を放つが、届くことなく、その場に残っていたノーバディと打ちあいになり、相撃ちになって死ぬ。
かくして、逸脱者である二人はともにノーバディの手によって、「正しい死」を迎える。
こうなってみるとノーバディという名は非常に意味深い。
誰でも無いのなら、一体誰だったのか。
おそらく彼は「神の見えざる手」だったのだろう。
システムを動かすための偉大なる仲介者であり触媒。
逆に言えば、二人とも直接殺し合うことが構造的に出来ない物語だ。
はじかれた者同士は触れることが出来ない。
・「死にぞこなった」近代
この物語が面白いのは、スタートというか元凶みたいな位置にあるマシーンに一切視点が戻らないことである。
ブレイクを殺すように命じた有力者やその取り巻きも、非常に意味ありげな雰囲気なのに、いったん視点がマシーンを離れると、最後まで本当に一秒たりとも出てこない。
つまりマシーン=近代はこの物語=死生観からは疎外されている。
ゆえに誰も彼らを殺してはくれない。
死にぞこなっている。
それが果てして幸福なのか不幸なのかは分からん。
ただ、もう我々は海には還れないのだろう。
・白と黒
この映画はモノクロです。
これが何か意味があるものなのか、それともジャームッシュ一流のただのヲサレ演出なのか、どっちなのかと言えば、割と後者の気がしないでもないけど、まぁ、昔から葬式は白と黒と決まっているし、それでモノクロなのかもな。
いや、アメリカでも葬式は白と黒なのだろうか。
うぅむ。
それはともかくですね、実際モノクロっていうのがいい味出してるんですよ。
ブレイクを演じるジョニー・デップの美しさも二割増し。
いろんな人が言ってるけど、途中、森の中で撃たれた兎の横にそっと横たわるシーンとか、もう絶品ですよ。
パッと見、一発で持っていかれる力のあるショット。
あと最後、小舟に乗って横たわってるシーンもまたいいんだよ。
・意外と死ねないもんだ
最初にも書いたけど、この映画、割とだるいです。
正直言うと結構だるいです。
ジャームッシュ特有のオフビートな感じがもうだるい。
「このシーンとこのシーンとこのシーンと……ええぃ、これ全部消してしまえ!」と思う人も多いはず。
そのくせDVD特典の削除シーンを見てみたら、結構重要っぽいシーンを削除してやがる、という。
好意的に言えば、死と生の雄大さ、そしてだらだら続く感じを出そうとしてんのか、とか思ったりもするけど、いや、まぁだるいよ。
・まさかの女装
イギー・ポップが女装して出てます。
・熊
前に観た『ゴースト・ドッグ』にも出てたけど、熊、好きなのかね。