Phrazes for the Young

Phrazes for the Young

Julian Casablancas『Phrazes For The Young』

The Strokesが『Is This It』でシーンに登場した時、その端正なルックスと、研ぎ澄まされた無駄のないサウンドに多くの人が夢中になった。

しかし、同時にそのサウンドゆえに逆に懐古主義者という負のレッテルを貼られることにもなった。

もっとも、きちんと聴いていれば、彼らが今の時代にふさわしいサウンドを追求する、懐古主義者とは程遠い存在であることにすぐ気付くことができるはずであり、そしてその証明であるかのように続く『Room On Fire』と『First Impression Of Earth』では、アレンジやサウンドの多様性、緻密さ、挑戦精神を見せつけてくれた。

しかし同時に『First Impression Of Earth』の分裂症的とも言える多様さに、「この先どうすんだろ」という不安を感じたことも事実である。

そんな不安を裏付けるかのような、バンドの長年の沈黙。

次々とソロ活動を始めるメンバーたち。

そして『First Impression Of Earth』からほぼ丸四年経って発表されたのが本作である。

聴いてみて思ったのは「あ、やっぱりThe Strokesになるのね」ということだ。

路線的には『First Impression Of Earth』に近い。

分かりやすいパッキリとしたサウンドで、曲ごとの方向性もテクノからカントリーまでと、幅がある感じもそのまま。

感情たっぷり、自己陶酔たっぷりの歌声もそのまま。

キーボードやドラムマシーンなどThe Strokesでは使わない機材もたっぷり使っているのが違いと言えば違いだけど、元々The Strokesでも他の楽器でそんな音を出してたから、そこまで決定的な違いとも思わない。

むしろ決定的な違いはゆるさである。

ジュリアン本人が「The Strokesの作品は5人の口うるさい裁判官のチェックをくぐり抜けたもので、俺のソロの作品はそれに比べるとやっぱり完成度が少し落ちる」と言っていたらしいが、その「完成度が少し落ち」てる感じ、「まぁ、俺だけの作品だから、このくらいで」みたいな感じがこの作品にはある。

と、書くと、そこが欠点であるかのように見えるが、逆である。

そこがいい。

『First Impression Of Earth』にあった5人が頭突き合わせてうなってる閉塞感がここには無い。

8曲40分というサイズもまたプラスに作用している。

The Strokesの直面している課題への根本的回答はここにはない。

でも、ここには一人の希代のソングライターが作ったモダンなロックンロールの一つの形がある。