ベストアルバム


Man on the Moon 2: the Legend of Mr. Rager

Man on the Moon 2: the Legend of Mr. Rager

1. Kid Cudi『Man On The Moon 2 : The Legend Of Mr.Rager』

ようこそ 僕の世界へ
ゆっくりくつろいでくれ
不思議と愉快と魅惑がグチャグチャに混ざり合ったここで
次世代の感覚を約束するよ

真っ暗でダークな場所に 見捨てられたヤツらと
真っ暗でダークな運命に 晒されたヤツらの
先頭をきって

全五章で構成されたコンセプチュアルな作りの本作の1曲目"Scott Mescudi VS The World"でKid Cudiはぶっきらぼうなフロウに乗せてこう宣言する。

サイケなシンセ、トリッキーなフレーズ、リヴァーブのかかったビート、歌とラップをゆらりゆらりと行き交うカディのボーカル。

そして聴いてるこっちも気がつけば、月の裏側へ。


How I Got Over

How I Got Over

2. The Roots『How I Got Over』

Dirty ProjectorsやMonsters Of Folk、そしてJoanna Newsomと言ったインディ・ロック、オルタナティブ・ロック周辺の人材をゲストに迎えてはいるが、そんなにぶっ飛んだ、ジャンルをまたいでシーンに衝撃を与えるような作品ではない。

導入のような1曲目を経ての2曲目"Walk Alone"から5曲目まで"Now Or Never"まで、曲が凄腕のDJのプレイのように滑らかに繋がっていく様がとにかくため息が出るくらい美しい。



Heligoland

Heligoland

3. Massive Attack『Heligoland』

7年ぶりの新作は音楽的に言えば、3Dがほぼ一人で作り上げた前作『100th Window』の驚くほど重層的に組み上げられたエレクトロニックなサウンドを、若干生演奏っぽいグルーブに寄せて、隙間を作った感じ。

そうすることで少しブラック・ミュージックのフィーリングが戻ってきたのが、今の気分にちょうどフィットした。

しかし音が本当に美しい。

磨きに磨かれている。

CDの盤面もまた美しい。

満天の星空のような趣。


Archandroid

Archandroid

4. Janelle Monae『The Archandroid』

暗い時代だからって、暗い気持ちを抱えてるからって、暗い音楽やる必要はないんだと。

むしろ、そんなだからこそ、思いっきりファンクするんだと。

跳ね上がって、飛びあがるんだと。

スウィング・ジャズ、ファンク、ヒップホップ、ロックンロール、ボサノヴァカリプソ……様々な音を軽やかに跳躍する作品。

自分をフックアップしてくれたBIG BOIをフィーチャーした、プログレッシブでありながら軽快なファンク、"Tightrope"は間違いなく今年のベストソングの一つ。


マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー(初回限定盤)

マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー(初回限定盤)

5. Kanye West『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』

「私はどこまで高く昇れるのだろう」

冒頭の"Dark Fantasy"でそう高らかに歌うゴスペルは、カニエ自身の、そしてこの資本主義の競争社会に生きる我々自身への福音(=ゴスペル)でもある。

なんて感動的で、メロドラマチックなのだろう!

この情緒過剰さ、嫌いな人は嫌いでしかたないだろうが、俺は揺さぶられてしまった。


プラスティック・ビーチ (エクスペリエンス・エディション)(限定生産盤)(DVD付)

プラスティック・ビーチ (エクスペリエンス・エディション)(限定生産盤)(DVD付)

6. Gorillaz『Plastic Beach』

一つ一つは特徴的な音が隙間なく重って、溶け合っているようなサウンドになっていて、これは前作『Demon Days』が一つ一つの音の輪郭がくっきりして、分離がよかったのとは対照的である。

音だけでなく言葉の面でも同じイメージを何度も用いることで、作品全体に統一感を生み出している。

今回彼らはエレクトロ、ダブ、ヒップホップ、中東、カリブ海、ラテン、サーフ・ミュージックといったありとあらゆる音を旅しながら、終末のイメージに惑いつつも、ただひたすらに愛を求めている。

今作の舞台であるプラスティック・ビーチとは海に捨てられたゴミが自然と集まってできた奇形の島であり、これは環境問題の戯画化された象徴なのだろうが、同時にインターネットという海に漂う、断片化されたまま繋がることのできない我々自身のことではないのだろうか。

そんな場所からデーモンはポップ・ミュージックという万人に繋がるためのアート・フォームで、決して届かない、沈みゆく愛を歌う。


Surfing the Void

Surfing the Void

7. Klaxons『Surfing The Void』

前作が好きだったのは、つんのめるようなビートと馬鹿馬鹿しいほど華やかな多重ボーカル、コーラスの組み合わせの妙によるところが8割を占めていた。

となると、その要素がそのまま残っている今作を嫌いになる訳が無い。

しかし何度聴いても、このバンドの鳴らす音楽はよく分からない。

どの辺が根っこにあるのか、どうやってこうなったのか。

"Twin Flames"のグロテスクで官能的なビデオは今年のベストの一つ。


Sir Lucious Left Foot the Son of Chico Dusty

Sir Lucious Left Foot the Son of Chico Dusty

8. BIG BOI『Sir Lucious Left Foot』

本家OUTKASTはもう随分と沈黙している中、ようやく延び延びになっていたBIG BOIのソロ第一作が届いた。

実質ソロ作だった『Speakerboxxx』同様、相棒のAndre 3000ほどぶっ飛んではいないが、ヒップホップというフィールドの中を縦横無尽に駆け回っている。

声でベースラインを鳴らすシュールな"Shutterbugg"、オペラをサンプリングした"General Patton"、地を這うようなアフリカン・グルーヴがセクシーな"Tangerine"、自身がフックアップしたJanelle Monaeをフィーチャーしたキュートな"Be Still"……などなど粒ぞろい。



False Priest

False Priest

9. Of Montreal『False Priest』

The BeatlesがPrinceをカバーしてる、みたいなプラスチックでファンキーなロックンロール。

Janelle MonaeやSolanjeなど、エクレクティックな音楽を鳴らす黒人女性ミュージシャンをゲストに招いていることからも分かるように、かなりエキセントリック。

でもエキセントリックなものこそ、異形なものこそが、ポップだ。

しかし何を置いても3曲目の"Coquet Coquette"がセクシーなんだ、とにかくめちゃくちゃセクシーでゴージャスで最高。

西部劇とフレンチの出会いというか。


New Amerykah Part Two: Return of the Ankh

New Amerykah Part Two: Return of the Ankh

10. Erykah Badu『New Amerykah Part2 : Return of Ankh

各音楽メディアで絶賛の嵐だった前作に引き続き今作も何曲かでプロデュースにMadlibが参加しているが、前作ほどとんがったトラックは無い。

さらに言えば政治的ステートメントがふんだんに盛り込まれた前作に対し、今作は全曲ラブソングだ。

穏やかなテンポのゆったりとしたグルーヴの中で、エリカの歌声が豊かな表情を見せる。

インパクト大なジャケットに反し、淡々としながらも手のこんだ佳作。

J.Dillaのプロデュース"Love"がまた素晴らしい。

The Rootsの新作にもDillaを追悼する曲が入ってたが、死後数年経ってもまだ周辺の人達に影を落としてるんだな……。


Airtight's Revenge

Airtight's Revenge

11. Bilal『Airtight's Revenge』

ウルクエリンアンズきっての奇才Bilal、十年ぶりの二枚目。

ジャズ、R&B、ヒップホップ、エレクトロニカを自在に越境しながら、ナルシスティックかつファンタスティックなBilalのボーカルが全開。

Princeの系譜と言えるが、ただのフォロワーとは呼ばせない存在感と迫力がある。

次はもっと早いリリースを期待したい。

あとマルコムXそのもののジャケットが最高。

印刷も凝ってるし、今年のベスト・ジャケットの一つ。


STRUGGLE

STRUGGLE

12. MO'SOME TONEBENDER『STRUGGLE』

冒頭Suicideさながらの邪悪なエレクトロ・ロックンロール"Hammmmer"で百々はBob Dylanさながらにこう吐き捨てる。

身ぐるみ剥がされて ポイ捨てにされる気分はどうだい?
どん底のまだ先 沈んでく今の気分はどうだい?

この瞬間ガッツポーズを取ったファンは少なくないはず。

バンド内の軋轢、焦燥と、2010年日本のざらついた、閉塞した空気感がシンクロしたこの作品で、久々にモーサムはソリッドでブルータルなバンド・アンサンブルに回帰した。

ただ『Hello』の頃のような隙間の多いシャープなサウンドではなく、今作は個々の楽器が太く強く硬く磨きあげられたサウンドなのが違いだろう。


Apollo Kids

Apollo Kids

13. Ghostface Killah『Appolo Kids』

2010年はInspectah Deck『Manifesto』や、MethodmanとGhostface KillahとRaekwonの三人による『Wu Massacre』などWu-tang Clan周辺がにぎやかな年だったわけだが、その中で一番良かったのが今作。

ウータンで一番のソウルマンという触れ込みのGhostface Killahらしくサンプリングされたボーカルが輝きを失わずにトラックの中で生きている。

ダーティでソリッドなトラックで、MC達が火花を散らす。

まさにウータン印。

全部で約40分というタイトな構成も良い。

個人的には『スター・ウォーズ』のR2-D2の出す電子音を使いまくった"Starkology"にびっくりした。



Where Did the Night Fall

Where Did the Night Fall

14. UNKLE『Where Did The Night Fall』

路線としてはジョッシュ・オムらと組んで一気にロック寄りのサウンドになった前作の延長上なのだけれど、聴いていて思い出したのはエレクトロニカ寄りだった前々作の方。

淡い煙に包まれながら、色彩豊かな光がそこから漏れ出しているような感じとか。

音の柔らかさ、磨き具合、ちょっとアンニュイなところとか。

その辺が似てるかな、と。

上で書いたとおり路線としては前作以上にバンド・サウンド

サイケデリックなロックを、モダンなサウンドでやってみたという趣。



旅人たちの祝日

旅人たちの祝日

15. 表現(hyogen)『旅人たちの祝日』

世界各地のトラッド・ミュージックの上で、雅楽の響きを感じさせるボーカルが朗々と歌う。

見たことのない空、山、大地、人々、音による旅。

しかし本当に一度聴いたら忘れられんボーカルだ。